Ceramics Chroniclesは、日本をベースとして陶芸シーンに起こった様々な事象を綴るパーソナルアーカイブスを目指しています。


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やきもの紀行(旧ぐい呑み旅)

その五 岡山駅前          1989年頃

新進気鋭の作家さん

1989年、岡山に出張した際、駅前近くに備前焼の看板が目に留まりました。窯場ではないが折角の機会と、帰路その店に立ち寄りました。ギャラリーというよりは備前焼専門の観光土産店といった様子で、三十代の女性が店番をされていました。一目見て趣の異なる平茶碗様のぐい呑みを手に取ると、女性が「その作家さん、とっても作品が良くて、今売り出し中で、私も大好きな作家さんなんです。」と生々とした声が返ってきました。もう一つぐい呑みがあると、筒茶碗様のぐい呑みを出してくれました。この作家への惚れ込み様が伝わって来ました。
 当時、備前焼の何たるかをまったく解していなかった私にも、そのフォルムから従来の備前焼とは明らかに趣の異なるモダニズムを感じ取ることが出来ました。「機会を逃したらチャンスは二度と訪れないものです。今まで何度も悔しい思いをしてきました」。思い切って二つとも買い求めました。新進気鋭の隱崎隆一作品との“ひょんな出会い“でした。その後の目覚ましい躍進ぶりはご存知かと思います。

氏は伝統的な胡麻、棧切、緋、緋襷を、大胆なしのぎや面取りのキャンバスに巧みにコントロールし、持ち前の卓越した感覚をもって、従来の備前焼にはなかった新たなモダニズム造形を切り拓いた鬼才だと思います。この二つのぐい呑みは、師の作風から脱却して、キュービック且つシャープな面取りで構成される独自の造形に向かう、正に揺籃期の作品だった思います。

そして、うつわにとって“見込み“はとても大切な見所であり、特に酒器においては、酒を湛えたその景色の美しさも醍醐味であるということを教えてくれた大切なぐい呑みたちです。

メモ
備前焼は鉄分の多い“ヒヨセ“と呼ばれる田土、伊部の山土、磯上の黒土を作家なりのブレンドまたは単味で使用し、赤松割木を二千から三千束、1週間以上焚いて1320℃の高音から三、四日冷却した後、窯出しされるという、とてつもない労力と工程を経て産み出される稀有なやきものです。六古窯の焼き締めの中でもきめ細かで重厚な質感、可塑性の高さ、炎が織りなす多彩な文様など独自の味わいが多くの陶工や作家、使い手を魅了して来ました。故に作家の数も日本有数のやきものです。

(筒形)
購入価格:5000円位
寸法(mm): 長径60 x 畳付き径40  x 高さ55(内高台5)
箱.箱書き; 有

(平形)
購入価格: 3000円位
寸法(mm): 長径85 x 短径70  x 高さ30
箱.箱書き; 有


 


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