Ceramics Chroniclesは、日本をベースとして陶芸シーンに起こった様々な事象を綴るパーソナルアーカイブスを目指しています。


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やきもの紀行(旧ぐい吞み旅)

その六 唐津         1991年頃

粉引きを育てる

1991年、仕事の関係で博多に1年程住まいしておりました。幸運にも九州はやきものの宝庫でした。折りを見て窯業地をめぐり歩きました。手始めに博多から地下鉄線一本で行ける唐津を訪れることにしました。弓なりに続く“虹の松原“とその先に絶妙な構図で立つ唐津城天守(別名「舞鶴城」)の優美な姿は、これぞ日本の風景と感動したのを覚えています。

天守に登った帰り、東城内口辺りに唐津焼の看板を見つけて中に入リました。窯元直売のお店のようで、還暦前後のご夫婦が相手をしてくださいました。唐津焼が何たるかの前知識も持たずに訪れたので、出されたお茶の湯呑みがすっぽりと手に馴染んで、全面に白粉をまぶしたようなマットな表情が気に入り、「この湯呑みを売っていただけませんか」といきなりお願いしてしまいました。おばさんは一瞬戸惑った後、「これなら新しいのがありますよ」と新品を出してくれました。それは、お茶の入った湯呑みとは全く趣が異なるものでした。こちらの戸惑いを察したか「使えば使うほどに育つんですよ」と快く店用を譲ってくれました。今にして思えば、無茶なお願いをしたものです。ご覧の通り、今は茶渋と貫入が景色となり、艶やかな湯呑みに育ちました。粉引きとの出会いでした。

寄り道の後、唐津といえば太郎右衛門陶房、まっしぐらに向かいました。先づ陶房の古風な建物と草むした窯跡に圧倒されました。その頃、陶房は十三代太郎右衛門(忠夫)窯と名乗っておられ、父の故中里無庵氏は人間国宝であり、一楽二萩三唐津と言われる御家ですから流石の感がありました。若輩者には陶房物で充分と「唐津絵粉引山盃」を買い求めました。

その後、お酒を良く飲ませたせいか今は良い感じに育ったようです。日本酒には土味の温かみ、きめ細やかな貫入、飽きの来ない絵柄、趣の柔らかさ、景色の育つ愉しみなどから、一唐津かな…(個人的な意見です)。

後悔はこの機会に、中里重利氏、隆氏の陶房に伺えなかったこと。
いつの日か岸岳周辺の古窯跡や他の作家諸氏の陶房を旅する楽しみを残して。

メモ
( 山盃 )
購入価格: 3000円位(超お買い得)
寸法(mm): 長径70 x 畳付き径30 x 高さ38 (内高台 5)
箱.箱書き; 有

( 湯呑み )
購入価格: 1000円位
寸法(mm): 長径75 x 畳付き径38 x 高さ58 (内高台 7)
書き; 無


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